2025/03/06 18:25


年明けと同時に『珈琲マインド』で販売を開始した1タイトルのCDが、売れに売れまくって僕は発送作業に追われながらも嬉しい悲鳴を上げていた。
京都の"さんぜう通り"の新作「学生の悲しみ」だ。

入荷をするたびに2日以内に完売してしまう。大したフォロワー数もないSNSアカウントに投稿した程度で、だ。欲しい人が能動的に情報を集めている、と考えられ、なおかつそういう音楽好きが多数いることに他ならない。
こんなことは、4年前に当店を立ち上げて初めてのことだ。

さて、その"さんぜう通り"は一体何者なのか?
京都の「三条通り」の言い換え(正しい言い方との説も どうなんでしょうか,京都の方?)をグループ名に冠した彼等のことと、大ヒット作「学生の悲しみ」の全曲について少し語ってみよう。

京都の音楽ユニット「さんぜう通り」との出会いは、2019年リリースの「元気どす。」のCDをジャケ買いしたことからだ。(当時は"和・ケンミンズ京都編"名義)
はっぴいえんどの"ゆでめん"のような漫画ジャケによるアングラな雰囲気もそうだけど、それ以上に(デザインとして)左側に"タスキ"がついているのと、このヘンテコなタイトルに惹かれてのことだった。
70年代のフォークが好きならば真っ先に吉田拓郎の「元気です」を連想させる、この「わかってる」感じは間違いなく音楽的に信用できる。
シティポップ・リバイバル全盛で、70年代をモチーフにするにしてもはっぴいえんどやシュガーベイブ、細野晴臣などの音楽IQ高め(?)なところではなく、国民的人気を誇っていたがゆえに今ではあまり顧みられることがない吉田拓郎を持ってくるあたり、フォーク好きとしては信用しないわけにはいかないではないか。
聴いてみると、ぶっきらぼうな歌声とやるせない若者の日常を綴る歌詞、そしてビートルズとボブ・ディランを混ぜ合わせたようなやたらポップなメロディーラインと、やはり吉田拓郎の影響を感じさせながらそれを現代的に解釈した感覚が、一周回って新しくもあった。
途中コントのような寸劇を挟んだり、あの名曲をモジッた「金をあつめて」なんてナンバーも飛び出たり、70年代フォーク特有の諧謔精神も楽しい。
宅録ならではの粗削りさもあるが、非常に聴き応えのある力作だった。



そんな前作から5年を経て、新作「学生の悲しみ」が届けられたのは去年(2024年)の暮れ。
中口環太の1人音楽ユニットだった"さんぜう通り"は、映像作家・葛飾出身との2人組ユニットとなり、彼らの"第三のメンバー"と言っても差し支えない手練マンドリン奏者・Jin Nakaoka をはじめ、きむらさとし、かなびしあきひろ、山本夜更、さとうじゅんなど、関東・関西のアコースティック系インディーズ・ミュージシャンが多数参加したじっくりと練られたサウンドは、中口のクセが強いながらも親しみやすいポップなソングライティングと相まって、非常に聴き応えがあり完成度が高い。
漫画家として、商業誌の掲載も経験した中口自身の手によるイラストも、70年代アングラ・カルチャーのノスタルジック・ポップな質感が表現されていて、その音楽と一体となった魅了的な総合芸術の様相を醸し出している。

さて、その収録楽曲を1曲ずつ紹介しよう。

1.自転車どろぼう

リズミカルなフォークロック・ナンバーでアルバムはスタート。
カラリとしたポップなサウンドと、自転車泥棒と人付き合いのダブルミーニングを感じさせる歌詞が印象的。


2.むかし

物悲しい雰囲気の黄昏フォーク・チューン。
肌寒い夕闇を感じさせるマンドリンやフィドルの響きは、はっぴいえんど"ゆでめん"と双璧をなす70年代の名盤である、はちみつぱい「センチメンタル通り」を思わせる。


3.道端

前作「元気どす。」からの1曲。
鬱屈とした歌詞に反して、軽快なリズムとコーラスが楽しいポップ・ナンバー。
その雰囲気は、個人的には吉田拓郎の名曲「たどりついたらいつも雨ふり」を連想する。



4.すごい寝た

マイナー調のメロディーとシャッフルのリズムが渋い、ジャジーなフォーク・ロック。
どことなく「ルビーの指輪」を連想させる、昭和歌謡メロディーがアダルティな雰囲気の、本作では異色ナンバー。



5.凍える

アルバム中最もアコースティック色が薄い、タイトルとは裏腹のホットなロック・ナンバー。
クラレンス・ホワイトばりの、カントリーピッキングなエレキギターが冴え渡るソロが秀逸。


6.中口氏の場合

こちらも前作からの1曲で、無骨な歌いまわしとノスタルジックな泣きのメロディーが切ない1曲。
ソニー時代の吉田拓郎や岡林信康、さらに遡ればボブ・ディラン「ブロンド・オン・ブロンド」のような、自分語りの歌詞+ポップなメロディー+ざっくりとしたフォーク・サウンドという、フォーク・ロックの王道を貫く姿勢が潔い。
「エレカシ」や「センチメンタル通り」という固有名詞が飛び出すリリックも素敵だ。



7.さんぜう通り静か

自転車のSEから始まるインターミッション・チューン。
ライ・クーダーの映画の劇伴のような、薄ぼやけた情景が浮かぶようなインストゥルメンタル。


8.月夜のデルタ

流れるような"電気ギター"が軽妙洒脱な、酔いどれ歌謡曲。
ちょっと「たま」を思わせる曲調と歌い方が印象的。
戦前流行歌のSP盤のようなアレンジも楽しい。


9.もしも

昭和歌謡を思わせるマイナー調のメロディーがいつまでも耳に残るフォーク・ワルツ。
「自転車どろぼう」の歌詞と同じく辛くもどかしい気持ちを思わせる歌詞と、黄昏度数高めなメロディーが味わい深い。


10.元気どす。

吉田拓郎の「春だったね」や「ペニーレインでバーボンを」などの名曲を連想させる、軽やかなフォークロック・チューン。
70'sフレーバー溢れるツボを抑えた演奏とポップなメロディー、そこに乗るぶっきらぼうな歌声が耳に心地よい、アルバム終盤にぴったりな楽しいナンバー。



11.留年

締めはデモっぽい弾き語りナンバー。
友達に綴った手紙のような歌詞が切なくも、タイトルで皮肉が付いているのがユニークな1曲。



全体の印象としてはやはり、URC・ベルウッド・エレックなど、70年代の日本のフォークの名盤を、現代的に解釈して鳴らしている、という感じ。
作風もさることながら、同じ音楽の好みを持った"わかっている"者同士の、横つながりなインディーズ・ミュージシャンが協力し合って作り上げたところが似通っていて、それがアルバムに通底する「音楽愛」を感じさせるのだろう。
それらの名盤が(発表当時は大ヒットに至らなかったながら)いつまでも愛されているように、この「学生の悲しみ」も音楽好きに愛され、ずっと聴き続けられてゆけば、と願うばかりだ。