2024/10/24 15:51
30回以上も一つのイベントを続けると、一つの"型"が出来上がる。
「芳醇な香り立つコーヒーのような、ほっこりとしてちょっぴりほろ苦い、琥珀色の名曲の数々を味わいませんか?」
そういう長いキャッチコピーを掲げ、名古屋で活躍するシンガーソングライター・アジマカズキと意気投合するかたちで始めた「コーヒーもう一杯」も、コンピレーション・アルバムの制作を経て、そこに参加したバンドやミュージシャンがそのまま"馴染の"出演者となって(解散してしまったり活動が途絶えたグループもいるけど)これまで続けてきた。
とはいえ、僕は何かする時には「常に新しいことがしたい」という信念があり、「コーヒーもう一杯」もそれは例外ではなく企画ごとにそのカラーを少しづつでも更新していきたい、と考えている。
これまで大抵のブッキングでは、"馴染の"ミュージシャン2~3組に県外ミュージシャン1組、といった具合に、イベントの安定感を保ちながらそこに新しい息吹(たとえ微風でも)を注ぎ込むことに腐心してきたつもりだ。
今回の「コーヒーもう一杯 vol.34」は、その風が少し強すぎたかも知れない。
というのも、開催一週間前の段階で、予約がほとんど入っていなかったのだ。
何しろ、今回はアジマカズキやそらしのなど"馴染"が一組もいないブッキングなのだから無理もない。
「コーヒー」の背景には、僕を加えた常連ミュージシャンのサークル的な側面があり、そこに僕らの顔なじみ数名が都合をつけて参加する、みたいなかたちでイベントが成り立っている部分がある。
お店と客の垣根が限りなく低い、街の喫茶店や地元に根付いたスナックのようなものに近いだろう。長くやっているイベントにはよくあることだ。
僕はそこに「新顔」を皆にお披露目するような気持ちで、県外ミュージシャンや別のシーンで活躍するバンドを加える。少しずつイベントの輪が広がったり、ミュージシャン同士の新しい交流が生まれないか、という期待を込めて。
ご新規さんを置いてけぼりにして常連の客だけで盛り上がる店(イベント)というのは、僕の望む姿ではない。
それを踏まえると、今回のブッキングは少し冒険が過ぎた。
ただ、この3組自体はそれぞれ緩い繋がりがあり多少は見知った間柄のようで、彼女らにしてみれば「コーヒーもう一杯」というイベントの方が「新顔」なのかも知れない。
それと、アコースティック音楽のライブイベントと言っても、ジャンルとしての「コーヒーもう一杯」はフォークやシンガーソングライター、ブルーグラスやアイリッシュ・ミュージックなど古色蒼然とした60~70年代の雰囲気をテーマにすることが多く、ニューウェーブやインディー・フォークの色が強い今回の3組が揃った今回は、ジャンルとしてはそもそもが異色だ。
本来なら、これらのジャンルの然るべきレーベル・オーナーやハコがブッキングすべき内容かと思うので、やはり集客が厳しくなるのは必然である。
しかしこのブッキングは、このジャンルでいうところでは僕にとって最高の組み合わせであることは、紛れもない事実だ。
それに、集客できないことを長々と言い訳がましく書き連ねてしまったが、つまるところ僕自身の影響力やイベントにおける信頼度、早い段階での宣伝努力が不足していたところに原因がある。
当然ながら、これは出演者それぞれの集客力は関係ない。こちらからブッキングオファーをしている以上は、集客の全責任はオーガナイザーが負うべきだ、というのが僕の考え方だ。
(名前だけで多くの人を集めるミュージシャンのブッキングなどコネも資金力もない主催者には不可能だ)
自分の主観でミュージシャンやバンドの組み合わせを考えて魅力的なイベントを組み、様々な手段でその「楽しさ」を懸命に伝える。
イベントに対する熱意と期待を出演者に余すことなく伝え、集客に助力する気持ちを促す。
名前だけで集客が完了してしまう出演者にオファーするより、そうしたブッキングのセンスや努力でお客さんを集めて作り上げるイベントのほうが、僕は断然楽しい。
そんな、ある意味僕の「わがまま」で組んだために集客に苦戦してしまっていたので、Xの本人アカウントにて恥を偲んだ訴求ポストを投稿したのが、開催の5日前だった。
ここに書いたのは、僕のイベントを行うにあたっての基本の考え方だが、少々の誤解を与える言い回しをしてしまったようで「イベントや出演者に対する誇りはないのか」という批判を受けたりもした。
確かに、身も蓋もない訴求であることは確かで、こうしないためにやっておくべきことはたくさんあったし、願わくばイベントにちゃんと「誇り」が持てるような、有無を言わせない実績を積み重ねていきたいとは思う。
しかし、僕より若く集客力もあるイベント主催者の何人かが、このポストを「勇気がある」と称賛してくれたことは嬉しかった。
自分としてはただ必死なだけであり、それなりの年を重ねるうちに「恥」に対しての耐性がついただけのことではあるけど。
結果、この後に予約が伸びて満員とは言えないものの、当日には来場した子供たちも楽しめる賑やかでハッピーなイベントになり、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
以下は、今回のライブの個人的な感想。
ライブの1番手は、この日の出演者の中では唯一「コーヒー」出演歴がある muui さん。
前回は鍵盤奏者とのデュオだったが、今回はギター弾き語りのソロスタイル。
ゆるいエフェクトをかけたアコースティック・ギターの旋律は水色の響きを伴い、そこにクールでエモーショナルな彼女の歌声が響き渡る。
MCは言葉少なげだけど、感情溢れる歌は饒舌で、その表現力で観客の心を見事に掴んでいるように見えた。
2番手は、静岡のポップユニット matatapia のヴォーカリスト・百瀬歌鈴さん。
実のところ、バンド活動を主軸にしソロでのイベント出演をあまりされていない(ように把握している)彼女を、僕は少しだけ「大丈夫かな?」と思っていたけど、ライブが始まってその杞憂はすぐに霧散した。
アコースティック・ギターを抱えて感情豊かに歌う姿は、なかなか堂に入っている。
ライブ合間のMCによると、matatapia 結成以前は、高校生の頃から弾き語り活動をしていたとのこと。道理で。
そして、このMCがやたらと語り上手なのに妙に感心した。リハの時などの話しぶりだと口下手に思えたものだけど。
しかし、彼女の最大の魅力はやはりその卓越した歌の表現力で matatapia の楽曲同様、弾き語りでも(だからこそ、か)その惹きつける力はいささかも損なわれない。
トリは、アコースティック・サウンドをシューゲイズにドリーミーに表現する男女デュオ・Menow
ギターの旋律とエレクトロな音色で織りなす音世界とポエティックな歌で、聴くものを夢心地にさせる生演奏は、緻密に制作された音源とはまた別種な魅力を放つ。
結成当初からライブを観ている自分としては、以前は緊張感を孕んだ重厚な音で圧倒していたその演奏は、今は随分とすっきりまとまって、多幸感溢れる軽やかさを身につけたように思えた。
先の訴求ポストの反芻になるが、やはりイベントに来てくれるお客さんは尊い。
4時間近くの時間を拘束することになる「ライブイベント」というのは言わば「消え物」であり、そこに数千円を突っ込むことはこの物価高と国からの搾取が横行している現代において、普通の人には容易にはできないはずだ。
なので「人を集める」ことは本当に難しいが、だからこそ非常にやりがいがあり、大入りだったときは(めったにないけど)脳内麻薬が分泌しまくるほどの快感がある。
もちろん「集める」だけでなく「楽しませる」ことこそが主催の義務なのだけれど。
これからも、自分の主観を信じてイベントを組み、「よく知らないけど野田さんのブッキングなら」という気持ちを起こさせるような(僕の大好きなフジロックのように)、僕なりの「楽しい」をしっかりと伝える努力をしながら信頼と実績を積み上げてイベントに誇りが持てるようにしていく所存だ。
今回のDJ選曲の Spotify プレイリストはこちら。