2023/12/29 20:39

先日、名古屋を拠点に活動するポップバンド・wowdow のイベント「"really nice POP" room vol.2」に行ってきた。
小規模な会場で、ライブを交えてバンドの活動を振り返るという年次報告会的な内容で、ファンとの交流に重きを置く彼ららしいイベントだ。
名古屋・大須にある「古民家酒場ロム」は、その名の通り古民家をリノベ(とはいえかなりDIYな)したお店で、2階にある8畳ほどの会場はまんま古びた和室、という感じ。
そこに大所帯のバンドとファンが集まるものだから、まるで貧乏学生の安アパートに大勢つめかけてムリヤリ忘年会をやっているような(個人的には20代の頃に勤めていた会社の独身寮での馬鹿騒ぎを思い出すような)、実に楽しいイベントだった。
ファンと交流する、という趣旨としては、これ以上無いくらいナイスなシチュエーションだろう。



ライブとはいえ、そんな会場なのでフルセットのバンドサウンドは望むべくもない。
彼らが用意していたのはミニアンプにミニシンセにカホンといった、アンプラグドではないにしろ最小限出力の機材。
"mini pop set"と言い表されたコンパクトな音量のバンドセットではあったけど、いつもの「僕らのパーティーにようこそ!」というあの雰囲気はいささかも損なわれてはいない、程よくリラックスした心地よいライブだった。

そう、彼らは生粋のパーティー・ポップグループだ。
ただし、派手な音でらんちき騒ぎをする類の「宴会」ではなく、観るものを祝福し日々の糧となるようなポジティブなヴァイヴスを与える「パーティー」。
そういうバンドを思い浮かべるとすると、僕の脳裏にはローリング・ストーンズ、プライマル・スクリーム、RCサクセション、サザン・オールスターズといった名前が思い浮かぶ。
会場全体を包みこんで、バンドもオーディエンスも一体となって熱狂するような、まるでワンマンでフェスをやっているようなバンド。
彼らがそこまでのビッグネームになるかは、まだ未知数ではあるけれど。



僕と彼らとの出会いは、大学の在学中に活動していた前身の「ゼローネ」まで遡る。
2018年の秋頃、僕は自身の音楽イベントを立ち上げる計画を練っていて、出演依頼するバンドを探していた。
そんな時に、Sound Cloud でゼローネの存在を知り、メールを送ってコンタクトを取ったのだ。
最初に惹かれたのは、ヴォーカルの丸本拓未(通称:まる)の歌声だった。
彼の、伸びやかで時に色気を感じさせるようなソウルフルな歌声は、ゼローネの頃からほとんど変わらない。
そしてライブを観てみると、さながらギターヒーローのような佇まいの西尾大祐(通称:ぱりぱり)に目が惹かれた。
(今思うと、当時の彼ははっぴいえんど時代の鈴木茂に、なんとなく似ていたような気がする。)
入魂のソロをビシッと決めるワイルドな風貌のギター野郎、という雰囲気は、前述のバンドで例えるならキース・リチャーズやチャボ(仲井戸麗市)のような頼もしさだ。

現在の wowdow の主軸である上記2人と、ベース・あおき君、ドラムス・たらちゃん、キーボード・ごろりちゃんからなるゼローネは、誤解を恐れずに言えば、とても「青い」バンドだった。
無鉄砲さとナイーブさがないまぜになった、どこか未成熟で危うい雰囲気を持ったゼローネが鳴らす音楽は、なぜだかとても切なく魅力的に感じたものだ。
(後にぱりぱり君から、僕が感じたそのあたりのことを彼としてはジレンマに思っていた、と聞いた。)
その頃の彼らの魅力は、僕が撮影したこのラストライブの映像にもよく表れている。
僕自身いまだにリプレイすることの多い、大好きなライブ映像だ。



ゼローネの活動停止から紆余曲折あり、まる君とぱりぱり君は新たなバンド・wowdowを立ち上げる。
男性デュオ・スタイルにゼローネ時代の仲間からなる"team wowdow"が合流し、7~8人編成の大所帯でライブやレコーディングをするようになり、2022年には5曲入りCD「wowdow1」をリリース。



ゼローネ時代のナイーブな感性を残しつつも、音全体がビルドアップしている wowdow のサウンドは、どこか自信に満ち溢れていて純粋にカッコいい。
ジャケット写真にかけて言えば、強靭なポップスを鳴らすためのエンジンを様々な経験を通して手に入れた、という感じがする。



その後、地元の名古屋を拠点に大阪や東京でも精力的なライブ活動を展開し、着実に支持を広めている。



男性デュオから"team wowdow"のsbe・Tりょうが合流して4人組グループとなり、配信シングル「コントラスト」をリリースした数日後に、今度はビッグニュースが届いた。

(リンク先はそれについてのバンドの告知"X"ポスト)

これは、一介のインディーズ・バンドにとってとんでもない快挙だろう。
精力的に動いているとはいえ、wowdow の活動は全て自分たちのつながりを駆使したDIYで行っているはずであり、事務所に所属してマネージャーなどがついている訳ではない。
そんなバンドが全国ネットのドラマのタイアップを取ってくるなど、普通じゃないことくらいは音楽業界に疎い僕でも容易にわかる。
先日のライブでそのへんの経緯も詳しく話してくれたが、要約すると精力的なDIY営業活動の賜物ということだ。
実際、話をもらった時点から曲作り・レコーディング・オンエアまでのスパンは非常に短かったという。
そのへんの課題をしっかりクリアできたのも、常日頃彼らがしっかりと前を見据えて活動をし、自身の推進力を鍛え続けていたからに違いない。
運というのは、それが舞い込んだ時に掴み取る準備がしっかりできている者が「幸運」に変えることができるのだろう。
実際彼らと同じかそれ以上にクオリティの高い演奏をするバンドは名古屋にもゴマンといるだろうが、自身の目指すところをしっかりと見据え、意味のある手を一つ一つ打ち、名前と音をしっかりと届ける努力を怠らなかったのは wowdow が他のバンドより抜きん出ていた、ということだろう。
情報が洪水のように溢れる今は、誰かに見つけてもらうことを待つのではなく、頭と足をフルに使って自分から音を届けなくてはいけない。



僕は wowdow のライブに行った際、まる君と話をするのが好きだ。
僕はライブの感想をストレートに伝え、彼は今後の展開や目指していることを熱心に話す。
そんな彼の口ぶりを聴くたびに、なんだか僕自身も鼓舞されているような気がしてモチベーションが上がってくるのだ。

2023年の音楽シーンは、悲しい知らせばかりだったように思う。
そんな今年の暮れに届いた、日本の音楽業界においては細やかなニュースは、僕にとっては希望の光のように思えた。決して大げさじゃなく。
彼ら wowdow の、2024年のさらなる飛躍に、僕は大いに期待している。