2023/04/03 22:57
2021年5月末、僕の主催するイベント「コーヒーもう一杯」に参加していただいたミュージシャンによる同名のコンピレーションCDを2枚同時にリリースしました。
以前にも書きましたが、このイベント自体は70年代のジャパニーズ・ポップスを発掘・再評価する2000年初頭のリイシュー企画「喫茶ロック」シリーズに強い影響を受けて始めたものであり、ジャケット写真についても友人のカメラマンと共に実際に喫茶店へ赴いて撮影しました。
そのうちの1枚「夕暮歌集」は、午後3時から日が落ちるまでの時間を想定した選曲で構成しました。
発売は初夏の頃でしたが、本来は珈琲が美味しくなる秋の始まりのBGMを想定して作ったコンピレーションです。
今回は、このアルバムの収録曲を1曲ずつ解説していこうと思います。
1. wonderland / そらしの
ピアノ弾き語りのシンガーソングライターとして、セッションやバンドのサポート活動の鍵盤奏者として、愛知を拠点に活動するそらしのさん。
凛とした伸びやかな歌声と和の風情を感じさせる歌詞が魅力的なミュージシャンです。
軽やかなリズムとオーボエの響きが心地よく、さながらジブリ映画の主題歌ような雰囲気を持つ清廉で美しい1曲。
2. 魔法をかけさせて / コーラスウォーター
アメリカの伝統音楽・ブルーグラスの大学サークル出身の4人組、コーラスウォーター。
トラディショナル音楽とJ-Popの融合を目指す彼らの「ブルーグラス・ポップ」は、既に多くの幅広い世代の音楽好きを魅了しています。
ライヴで披露する「September」や「I Want You Back」など、ポップス寄りのカバーの選曲も絶妙。
紅一点・はお雨希が歌う、フェアグラウンド・アトラクションを連想させるスウィンギーなポップ・チューン。
3. 風来坊 / 海洋天堂
愛知を拠点に活動する女性2人組アコースティックユニット・海洋天堂。
アイリッシュ・ミュージックや日本のフォークをベースにしたサウンドと少年のような歌声で、とぼけた雰囲気の歌詞をちょっとヘンテコなメロディーラインで歌うさまは、女性版「たま」という感じ。
タブラ奏者・スーテテ氏を迎えたこの曲は、つげ義春の漫画のような情景の歌詞を淡々と歌う、不思議ながらも心地よい1曲。
4. 今日じゃなくてもいいな Ft. MCデンジャラスハーブ / リバーヴス
90年代から名古屋の音楽シーンで活動を続けるベテラン、リバーヴス。
伸びやかながらも渋みのあるヴォーカルと、グルーヴィーで温かみのあるAORサウンドが「酸いも甘いも噛み分けた大人のシティポップ」という雰囲気を醸し出す。
名古屋でラッパーやDJとして活躍するMCデンジャラスハーブ氏を迎えたこの曲は、Tokyo No.1 Soul Set を連想する遊び心あふれる大人のポップ・チューン。
5. 往来 / ベイブス
愛知や三重を拠点に音楽活動をするエナイダニコウヘイのポップ・ユニット、ベイブス。
ビートルズやオアシス、USインディー・ロックに影響を受けたメロディーやサウンドと、文学青年的な歌詞を繊細な歌声で淡々と歌う雰囲気は、新旧のポップス好きを魅了する。
移ろいゆく街の風景を淡々と見つめる、セピアな色彩の切ない1曲。
6. 待宵月 / 百景借景
名古屋を拠点に「カタリカタリ」や「しょうにゅうどう」などのバンド活動を展開する河合愼五率いる、様々なキャリアを積んだ4人のミュージシャンによるアコースティック・ユニット、百景借景。
バイオリンやワイゼンボーン、フルート、コントラバスなどの楽器を駆使して独特のアンサンブルを奏でるスタイルは、フェアポート・コンヴェンションや「はちみつぱい」に例えられる。
流麗なサウンドとトーンの低いヴォーカルが、どことなく和の風情を感じさせる味わい深い1曲。
7. さよならプリンス / アジマカズキ
愛知県を拠点にソロ弾き語り、バンド「すっぱつ」、ロックDJなど、幅広く精力的に活動するアジマカズキ。
とても気さくなロック好き兄ちゃんな彼だが、本人によると本質的にはネガティブで引っ込み思案だという。
その面が日本文学的な歌詞に如実に表れているが、暗い雰囲気にはならずにむしろ心地よく響く。
老齢した、どこか達観したような歌詞だけど、それがなぜか心地よい、彼ならではの名曲。
8. 夕焼け見にいこう / トロエッパ
金山の老舗喫茶店であり、近年では穴場のライブスポットとして全国の音楽好きにも有名なブラジルコーヒーの店主・角田波健太氏の助言により、福沢幸久をバンマスに同店の従業員たちで結成されたポップ・グループ。
メンバー全員がソロ活動をしていて、バンド内でも曲を書いてそれぞれヴォーカルをとり、音の雰囲気も76~78年頃のシティポップ前夜のジャパニーズポップスを連想させるさまは、さながらB級シュガーベイブという感じ。
独特の構成とタイム感で夕暮れのひとときを連想させる、気だるい雰囲気のストレンジポップ・ナンバー。
8. がぁでぃあん / すぱっつ
前述のアジマカズキ率いるバンド・すぱっつ。
元々はスピッツのコピーバンドから始まり、「たま」を敬愛する彼ら。
それを思わせるトボけたポップ感と飄々とした歌詞が、どこかヘンテコな雰囲気ながらも心地よい余韻を残す。
鍵盤ハーモニカやマンドリンの響きも切ない、カントリーバラードのようなノスタルジックなナンバー。
10. コンビニコーヒーブルース / 冬支度
音楽好きが目を瞠る卓越したテクニックとアンサンブル、そして飄々とした人柄でコアなファンを増やしている大阪のアコースティック・ユニット、冬支度。
アコースティック・ギターやマンドリンなどの弦楽器の優しい響きと、フルートやアコーディオンの儚い音色に乗せて描き出される、何気ない日常の風景を切り取った端正な歌の数々は、音楽ライターからも高い評価を得ています。
コーヒーを啜りながら暮れゆく街を眺める情景が、得も言われぬ無常感を漂わせる、しみじみと味わい深いミディアム・ナンバー。
以上、厳選した収録曲10曲は、いずれも歌心あふれる名曲揃いと、編者の私は自負します。
SoundCloudにて全曲、1コーラスのみのサンプル音源が聞けますので、音楽好きの皆さんにぜひとも一度聴いていただきたいと思います。